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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還
The Adventure Of Charles Augustus Milverton チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン 5
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
何年か同じ部屋で暮らしてきた仲だ、同じ檻で果てるのも一興かもな。
ねえワトスン、ここだけの話、ぼくはきわめて腕のいい犯罪者にだってなれたといつも思ってたんだ。
その方面でのぼくの生き様をお目にかけるいい機会だよ。ほらこれ!」
ホームズは引きだしから皮製のこぎれいな小型ケースを取りだすと、蓋をあけ、中のきらめく道具の数々を見せてくれた。
「第一級の最新式泥棒道具だよ。ニッケル箔の金梃子に、ダイアモンドのガラス切りに、万能鍵。文明の進歩にしたがって改良されてきた道具が他にもたくさん。
ぼくの覆いのついたランタンもここにある。準備万端だ。てごろな靴はあるかい? 歩いても音がしないようなやつ」
ミルヴァートンは眠りの深いたちで、きまって十時三十分に部屋にさがる。
うまくいけば、二時までにはここにもどってこれるはずだ。レディ・エヴァの手紙をこのポケットに収めてね」
私とホームズは礼装した。二人の芝居客が帰宅途中といったふうを装うためだ。
オックスフォード街で馬車を拾い、ハムステッドのとある番地に向かった。
そこで辻馬車に運賃を支払い、大きなコートの前を閉じ合わせて下車した。というのも、ものすごい寒さだったし、風も我々を吹き飛ばさんばかりのいきおいで吹いていたのだ。それから、ヒースの端にそって歩いていった。
「微妙な取り扱いを要する仕事だ」と、ホームズが言った。
「手紙はやつの書斎にある金庫のなか、そして書斎はやつの寝室とつながっている。
そのいっぽう、ああいう暮らし向きのいいがっしりとした小男にはよくあることだけど、睡眠過多の気がある。
アガサ――ぼくのフィアンセ――に言わせると、召使たちの間では、一度眠りについた主人を起こすのは不可能だと揶揄されているらしい。
それから、やつの利益に忠実な秘書が一人いて、日中は書斎を離れない。
ぼくは二日前からアガサと夜会うようにしておいたから、ぼくが入りこめるように閉じ込めてくれているはずだ。
ほら、どの窓からも光が漏れてないだろう? なにもかもうまくいっているよ」
マスクをつけてロンドンでもっとも野蛮な姿に変身した我々は、沈黙している薄暗い屋敷に忍び寄った。
家屋の片側にはタイル張りのベランダっぽいものがあり、いくつかの窓と二つのドアが並んでいた。
いちばん都合のいい侵入口だけど、鍵がかかっているうえにかんぬきまでおりている。ここから入ったのでは物音を立てすぎてしまう。
ここも鍵がかかっていたが、ホームズはガラスを丸く切りとって内側に手をいれ、鍵をはずした。
私につづいて入ってきたホームズがドアを後ろ手に閉める。我々は法の下では犯罪者になったのだ。
温室のねっとりしたなまぬるい空気と、おびただしい異国の植物のむせかえるような香りが我々ののどをついた。
暗闇の中、ホームズは私の手をつかんだまま眼前にしげる潅木の垣をすばやく通りぬけた。
ホームズにはおどろくべき力があり、それに熱心に訓練したこともあって、暗闇でもものを見ることができるのだ。
私の手をつかんだまま先ほどとは違うドアを開けた。大きな部屋に入ったのだと言うことがおぼろげに察せられた。すこしまえまで、だれかが煙草をすっていたようだ。
手探りで調度品の間を抜けたホームズは、別のドアを開け、私を中に入れてから後ろ手にそれを閉めた。
手を伸ばしてみると、壁に数着のコートがかかっているのがわかった。ここは廊下なのだ。
廊下を進んで右手にあったドアを、ホームズがそっと開く。
何かが飛び掛ってきたので一瞬心臓が止まるかと思ったが、それが猫だとわかったときには笑ってしまうところだった。
この部屋では暖炉に火がいれてあり、また先とおなじく強い煙草のにおいがした。
ホームズはつま先だって部屋に入ると、私が中に入るのを待って、そっとそっとドアを閉めた。
ここがミルヴァートンの書斎だ。奥にあるカーテンが寝室の入り口になっていた。
火は十分におこっており、部屋中を明るく照らしていた。
ドアのそばには電灯のスイッチがほのかに光って見えたが、仮に安全だったとしても、使う必要はまったくなかった。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha