※本文をクリック(タップ)するとその文章の音声を聴くことができます。
右上スイッチを「連続」にすると、その部分から終わりまで続けて聴くことができます。
※ "PlayBackRate" で再生速度を調節できます。
His Last Bow シャーロック・ホームズ最後の挨拶
The Adventure of the Devil's Foot 悪魔の足 9
Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
あんたの成功は、すべてこの並外れたハッタリの力によるものなのか?」
「ハッタリは」と、ホームズは厳しく言い放った。「あなたがかけているのです、ドクター・レオン・スタンデール、私ではありません。
証拠として、私の結論の基礎となっている事実をいくつかお話しましょう。
大量の所持品をアフリカに送る手続きをとりながら、プリマスから引き返したことについては、何も言うつもりはありません。ただそのとき初めて、あなたがこの殺人劇の構成に参加するひとつの要素であると知りました」
「あなたの説明はお聞きしましたが、私は納得不可能な不充分なものであると感じました。
あなたはここに足を運び、私が誰を疑っているのか尋ねました。
それからあなたは牧師館に行き、外でしばらく待ち、やがてご自分のコテージに戻られました」
「私に後をつけられている場合には、無人さんだけしか見えないものでしょうね。
コテージで眠れぬ夜を過ごしたあなたは、とある計画を練ったのです。そして、その朝早く、あなたはその計画を実行に移しました。
ちょうど日が昇るころ部屋を出て、ポケットに赤みを帯びた砂利をいくらか詰めこみました。砂利は門のそばに山と積んでありました」
スタンデールは荒々しく身じろぎして、ホームズを驚きの眼差しで見つめた。
「それから、足早に牧師館への道を歩いていきました。
そう、あなたはそれと同じ畝模様のあるテニスシューズをはいていましたね。
牧師館につくと、果樹園と脇の生垣を通りぬけて、下宿人トリジェニスの窓の下に行きました。
すでに日光が射していましたが、家のものはまだ活動していませんでしたね。
あなたはポケットから砂利を取り出して、上の窓に投げつけました」
「2握り、ことによるともうひと握りを投げつけたところで、下宿人が窓際にやってきました。
そこで会見をしている間――短時間に終わりましたが――あなたは部屋の中をいったりきたりしていました。
それから、あなたは部屋から出て窓を閉め、外の芝生の上で葉巻をふかしながら立ちつくし、中の出来事を観察しました。
最後に、トリジェニス死亡後、きたときと同じように引き上げていったのです。
さあ、ドクター・スタンデール、この行為をどう正当化しますか? それに、いったい動機は何だったんですか?
私を軽く見たりごまかしたりしたときは、この問題が私の手のうちから完全に放棄されることを保証しますよ」
ホームズから告発の言葉を聞くと、スタンデールの表情は色を失った。
不意に、彼は胸ポケットから1枚の写真を取り出して、粗末なテーブルの上に投げ出した。
「ブレンダ・トリジェニスですね」とホームズが言った。
「そう、ブレンダ・トリジェニス」と、客人が答えた。
それが、他人を不思議がらせたコーンワルでの隠遁生活の秘密だよ。
ここは、俺にとってこの世で唯一の愛しいものに近づける場所だったんだ。
結婚はできなかった。俺には何年も前に出ていった妻があって、イギリスのふざけた法律では、いまだ離婚が許されない。
スタンデールは猛烈な啜り泣きに巨体を震わせて、斑に染まった髭に隠れた喉を掴んだ。
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha