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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Noble Bachelor 独身の貴族 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
「では、さっそく私たちの話をしましょう。」女性がいった。
「このフランクと私は84年にロッキー山脈近くのマクワイアのキャンプで出会いました。父の割り当て鉱区がそこにあったんです。
わたしとフランクは婚約をしました。けど、そのあとで、父がものすごい鉱脈を掘りあてて、財産を築きあげたんです。でもフランクの鉱区はどんどん鉱脈が薄くなるばかりで、しまいにはなにも出なくなってしまいました。
父が金持ちになればなるほど、フランクは貧乏になった。とうとう父はは私たちの婚約がこれ以上続くとは思わなくなって、私をサンフランシスコに連れて行った。
でもフランクはあきらめずにわたしのあとを追ってきて、父に知られないように、こっそり会いにきてくれました。
父に知れたら怒るに決まってますから、なにもかも二人だけで決めたことです。
フランクは、これからがんばってひと財産つくるから、きみの父さんと同じくらい金持ちになったら結婚を申し込みにくるよ、といいました。
だから私は、彼が生きている間は他の誰とも結婚しないと誓い、時が尽きるまで彼を待つと約束しました。
「それなら、すぐにでも結婚すればいいじゃないか」と彼は言いました。「そうすればぼくも安心できる。だけど、金持ちになってもどってくるまで、けっしてきみの夫だなんて名乗りをあげたりしない」
そこでわたしたちはじっくり話し合って、フランクがなにからなにまで段取りをして、牧師さんに立ち会ってもらって、その場で結婚式をあげたのです。そのあとフランクはひと財産つくりに出かけ、わたしは父のもとへもどりました。
「次にフランクのことを聞いたのは、モンタナにいるということで、それからアリゾナに探鉱に行き、ニューメキシコから彼のことを聞きました。
その後、鉱山労働者のキャンプがアパッチ・インディアンに襲撃されたという長い記事が新聞に載てっ、その犠牲者の中にフランクの名前がありました。
私は気を失い、その後何ヵ月も重い病気に患わされました。
父は私が衰弱していると思い、フリスコの半数くらいの医者に連れて行きました。
1年以上も何の知らせも来なかったので、私はフランクが本当に死んだのだと信じて疑いませんでした。
それからセント・サイモン卿がフリスコにやってきて、私たちはロンドンに行き、結婚が決まりました。父は大喜びでした、けれども私は、この地球上のいかなる男性も、私の心の中で哀れなフランクに与えられた場所を奪うことは決してできないだろうと、ずっと感じていました。
「それでも、もし私がセント・サイモン卿と結婚していたら、もちろん私は彼のために義務を果たしたでしょう。
愛に命令することはできないが、行動はできます。
私は彼と一緒に祭壇に上がり、わたしは自分の力の及ぶかぎり、よい妻になるつもりでした。
しかし、祭壇の手すりにさしかかったとき、ふと後ろを振り返ると、フランクが立っていて、最前列の席から私を見ていたのです。そのときのわたしの気持ちが想像できますでしょうか。
最初は彼の幽霊かと思いましたが、もう一度見ると、彼はまだそこにいて、まるで私が彼に会えて嬉しいのか残念なのか尋ねているような、一種の問いかけのような目を向けていました。
私が気を失わなかったのは不思議なくらいです。
すべてのものがぐるぐるまわって見えて、牧師さんの言葉もハチの羽音のようにしか聞こえません。
どうしたらいいのかわかりませんでした。
礼拝を止めて教会で騒ぐべきか?
フランクのほうをもう一度見たら、彼は私が何を考えているのかわかっているようで、唇に指をあてて「そのまま」と合図しました。
それからフランクは紙切れになにか書きつけたので、わたしへの手紙を書いているのだとわかりました。
そこで私は帰り際に彼の席の前を通ったとき、花束を落としました、彼はそれを返すときにわたしの手にメモをすべりこませました。
それは、彼が合図を出したときに、私に落ち合うよう求める一行だけのメモでした。
もちろん、私の第一の義務は今、彼にあることを一瞬たりとも疑ったことはなかったし、彼が指示することは何でもしようと決心していました。
「家に戻ってから、メイドに話しました。彼女はカリフォルニアのころから彼を知っていて、ずっと友人だったのです。
彼女には何も言わないように、しかし、荷造りと私のアルスターコートを用意するように命じました。
セント・サイモン卿に話すべきだったことは分かっていましたが、彼の母親や偉い人たちを前にするのは恐ろしく難しいことでした。
私はただ逃げ出そう、後で説明しようと決めました。
テーブルに着いて10分も経たないうちに、道の反対側の窓からフランクが見えました。
彼は私に手招きすると、公園に向かって歩き始めました。
私は抜け出し、身支度をして、彼の後を追いました。
ある女性がセント・サイモン卿について何か話しかけてきました--少し聞いただけですが、彼も結婚前にちょっとした秘密を抱えているようでした--しかし私は彼女から何とか遠ざかっ、フランクに追いつきました。
私たちは一緒に馬車に乗り込み、彼が取っていたゴードン・スクエアにある宿に向かいました。そしてそれが、わたしが長いあいだ待ち望んでいた本当の結婚でした。
フランクはアパッチの捕虜になっていたが、脱走してサンフランシスコにやってきて、私がフランクを死んだとあきらめてイギリスに行ったことを知り、私を追ってイギリスに追いかけてきて、まさに2回目の結婚式の朝、やっと私の前に現れたのです」。
「新聞で見たんです。」アメリカ人の紳士は説明した。
「名前と教会は書いてあったが、その女性がどこに住んでいるかは書いていなかった」。
「それから私たちは何をすべきか話し合いました。フランクは全てを明らかにすることを主張しました。でも、私は全てが恥ずかしくて、このまま消えてしまいたい、もう誰にも会いたくないと思いました--手紙で父に生きていることを伝えるだけして。
朝食のテーブルを囲んで私の帰りを待っている殿方やご婦人方のことを考えると、ぞっとしました。
そこでフランクは、私の結婚式の服や荷物を持ち出し束ねて、足がつかないように誰にも見つからないような場所に捨てました。
明日、私たちはパリに行くはずでした。ただ、どうやって私たちを見つけたのか私には想像もつきませんが、ホームズさんという良い紳士が今晩私たちのところに来て、私が間違っていて、フランクが正しいこと、もし私たちが秘密にしていたら、自分たちが間違っているという立場に置くことになる、ととてもはっきりと親切に教えてくれました。
そして、セント・サイモン卿と二人きりで話す機会を与えてくれるというので、すぐに彼の部屋を訪ねた。
ロバート、お聞きにんったことが全てです。私があなたを苦しめたのなら、本当に申し訳なく思っています。そして、どうかわたしのことを卑劣だと思わないで下さい。」
 
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