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The Return of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの帰還

The Adventure Of The Norwood Builder ノーウッドの建築家 3

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
仕上がった遺言書に、署名と、事務員による連署が行われました。
この青い書類がそうです、それからこちらが、ご説明したとおり、下書きです。
ミスター・ジョナス・オールデイカーは、建物の賃貸契約書や、権利証書や、抵当証書や、仮証書類などといった書類が山ほどあるので、一度目を通して理解しておいて欲しいと言いました。
一切が落ちつくまで安心できないそうで、その夜に、遺言書をもって、ノーウッドの家に足を運び、問題をまとめようと頼まれました。
『そうそう、きみ、ご両親には一言も漏らさないように。何もかもが落ちつくまでね。
ちょっと驚かせてやれるようにな』
あの方はこの点を強く言い張り、私に堅く約束させました。
「想像できるでしょう、ミスター・ホームズ、あの方が求めることを拒否できるような気分ではなかったのです。
恩人です。私はただ、あの方の希望にあらゆる点でお応えしたかったのです。
ですから私は、重要な仕事ができたのでどれくらい遅くなるか分からないと、家に電報を打ちました。
ミスター・オールデイカーは9時に家で一緒に夕食をとりたいが、その時間まで家にはいないと言いました。
もっとも、あの方の家を見つけるのにちょっとてこずりまして、30分ほど遅刻しました。あの方が――」
「待ってください!」とホームズ。「誰がドアを開けましたか?」
「中年の女性が。たぶん、家政婦なんだと思います」
「推測ですが、その女性から、あなたのお名前を口にしましたね?」
「そのとおりです」とマクファーレン。
「続きをどうぞ」
マクファーレンは額ににじんだ汗をぬぐうと、話を続けた――
「その女性は、私を居間にとおしました。質素な夕食が準備されています。
食後、ミスター・ジョナス・オールデイカーについて寝室に入ったところ、室内には大きな金庫が置いてありました。
あの方が金庫を開いて大量の書類を取り出しましたので、2人で調べ始めました。
終わったのは11時台だったと思います。
家政婦の手は煩わせられないということで、
フランス窓から帰るように指示しました。窓はずっと開けられていました」
「ブラインドは降りていましたか?」とホームズが聞いた。
「自信はありませんが、半分だけ降ろしてあったような気がします。
いや、間違いありません。あの方が窓を押し開こうと、ブラインドを引き上げているところを思い出しました。
ステッキが見つかりませんでしたが、『気にすることはないよ、きみ。きっと、また何度も会うことになるだろうから、今度会うときまで預かっておくさ』と言われましたから、
私は帰りました。そのとき、金庫は開けっ放しで、書類はまとめてテーブルの上に置いてありました。
ブラックヒースに帰れる時刻ではありませんでしたから、アナリー・アームズで一泊しました。今朝の恐ろしい事件のことは、朝刊を読むまで何も知りませんでした」
レストレイドは、この注目すべき解説を聞きながら、2、3度、眉を釣りあげたが、ここでようやく口を開いた。「他に何か聞いておきたいことはありますか、ミスター・ホームズ?」
「ブラックヒースに行ってみるまでは何とも」
「ノーウッドじゃないですか」とレストレイド。
「ああ、そうか。確かにそれですよ」とホームズが謎めいた微笑を浮かべて言った。
ホームズの剃刀のような頭脳は、レストレイドの理解の及ばないところまで、事実を鋭く切り取ることができる。レストレイドはそれを、口で言う以上に、経験から学んでいた。
レストレイドはホームズを興味深げに眺めた。
「少しお話を伺っておくほうがよさそうですね、ミスター・シャーロック・ホームズ」とレストレイド。
「さて、ミスター・マクファーレン、戸口に警官を2人、外に四輪を待たせてある」
哀れな若者は立ちあがり、嘆願するような視線を我々に向けると、部屋から出ていった。
警官はマクファーレンをつれて馬車に乗りこんだが、レストレイドは後に残った。
ホームズは、摘み上げた遺書の下書きを、熱心な興味に満ちた顔で見つめた。
「なかなか特徴のある文書だね、レストレイド。どうだ?」
レストレイドは当惑した表情で書類を眺めた。
「最初の数行は読めますね。それに、2枚目の真中あたりと、最後の2、3行も。
印刷のようにはっきりと。が、しかし、その間の筆跡はかなりひどいな。まったく読めない部分も3ヶ所」
「そこから何を想像する?」
「ふむ、そちらこそ何を?」
「列車の中で書かれたということさ。
きれいな筆跡は駅を、ひどい筆跡は進行中を、さらにひどい筆跡は転轍機の通過を表しているんだよ。
科学的専門家なら、この文書は郊外線で書かれたものだと断言するだろう。大都市の周辺部以外に、これほど連続して転轍機が存在しているところはない。
この推理から、ミスター・オールデイカーは列車の旅の間中、遺言書を書きつづけたのだと思われる。乗っていたのは急行だね。ノーウッド―ロンドンブリッジ間で一度しか停車していない」
レストレイドは笑い出した。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Kareha
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