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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Speckled Band まだらのひも 7

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
ホームズは手入れの行き届いていない芝地をゆっくりと歩き回り、窓を外側からつぶさに調べた。
「見たところ、この端の部屋ががあなたがいつもお休みになる部屋、真ん中がお姉様の寝室、それから母屋に一番近いのがロイロット博士の部屋。」
「その通りです。今、わたくしはこの真ん中で休んでおりますが。」
「改修中は、ですね。
ところであの端の壁、大急ぎで直すほどのものには見えませんが。」
「必要ないんです。わたくしを部屋から追い出す口実かと。」
「ほう、いわくありげで。
この細い棟の反対側には廊下があって、三つの寝室が面している。
廊下に向いた窓はありますね?」
「ええ、ごく小さいものが。
狭いので、人の通り抜けはできません。」
「夜、寝室に鍵がかけてあれば、そちらからは忍び込めない。
では、真ん中の部屋へお入りになって中から鎧戸を閉め、閂をかけてみてください。」
 ストーナ嬢は指示に従った。ホームズは開いた窓も念入りに調べてから、外から鎧戸を無理にこじ開けようと手を尽くした。が、うまくいかなかった。
中の閂をはずそうとしても、ナイフの刃を差し込む隙間がない。
そこで拡大鏡を出して蝶番を調べてみたが、その蝶番は頑丈な鉄製で、固い石壁にしっかり埋め込んであった。
「ふむ!」とホームズも困ったという風にあごをさすり、「僕の理論にはまずいところがあるらしい。
閂がかかっていれば誰も鎧戸を通れぬか。
ふむ、内部に何か事件の手がかりがないか調べよう。」
 横にある小さな戸を押すと、三つの寝室が並ぶ白壁の廊下に出た。
ホームズは三番目の部屋を見ずにすぐさま二番目の部屋、すなわち今ストーナ嬢が使い、彼女の姉が最期を遂げた部屋に向かった。
質素な小さい部屋で、低い天井、大きい暖炉、いかにも田舎屋敷風である。
隅には茶色の箪笥が置いてあり、もう一方の隅は白い上掛けをかぶせた寝台があり、窓の左側には化粧台があった。
そのほか、小さな籐椅子二つを加えたのがこの部屋の家具のすべてであった。あと部屋の中央に高級なウィルトン絨毯が敷かれていた。
床も壁もみんな虫の食った褐色の樫材で、古さと色あせを見てもこの建物ができて以来そのままのものに違いなかった。
ホームズは椅子の一つを一方の隅に引いていって、しずかに腰を下ろすと、上下左右にぐるりと目をやり、部屋の隅々まで見回した。
「あの呼び鈴は、どこへ通じていますか。」ふと、ホームズは寝台のそばに垂れ下がっている太い綱を指さした。枕の上に房の先が乗っかっている。
「家政婦の部屋へ通じております。」
「他のものより真新しいようですが。」
「ええ、二年前につけたばかりです。」
「すると、お姉さまがつけさせた?」
「いえ、そのような話は。
いつも自分のことは自分で致しますので。」
「では、こんな立派な引き綱など不必要でしょう。
床を確認しますので、もうしばらくお待ちください。」
ホームズは手に拡大鏡を持ち、頭を床に近づけた。床にはいつくばりながら前後に動いて、床板の隙間まで細かく調べた。
それがすむと壁の木材を同じように調べつくした。
そして寝台へ歩み寄り、しばらく見つめていたが、壁を上から下へ眺め回した。
最後に呼び鈴の引き綱をつかんで、思い切り引っ張った。
「おや、飾りか。」
「鳴りませんか?」
「ええ、針金につながってもいない。実に面白い。
ごらんなさい、引き綱は換気のための小さな穴の上のあたりで、かぎ針に結ばれて動かない。」
「訳がわかりません。今までちっとも気づきませんでした。」
「実に妙だ!」と、ホームズはつぶやき、綱を引っ張る。
「この部屋には、奇妙な点がいくつかあります。
たとえば、大工はいったい何を考えて、隣の部屋へ穴をあけるのか。通風口なら、外気が入るようにするはずです!」
「それも最近のものでございます。」
「ええ、そのほかにも少し直したところがいくつもございます。」
「非常に興味深い特徴があるようです――飾りだけの引き綱、風の入らない通風口。
よろしいですね、ストーナさん、もうひとつ内側の部屋を調べに参りましょう。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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