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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Speckled Band まだらのひも 8

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 グリムズビ・ロイロット博士の寝室は、娘たちの部屋より広かったが、家具は同様に質素なものだった。
折りたたみのできる寝台、医学書ばかり詰まった木製の本棚、寝台のわきに肘掛椅子が一つ、壁に寄せて粗末な椅子が一つ、円卓が一つ、それから大きい金庫、これらが目にとまる主立ったものである。
ホームズは歩き回って、それらをいちいち強い関心を持って調べていった。
「中には何が?」と、ホームズは金庫を軽く叩いた。
「個人的な書類です。」
「ほう、中をごらんに?」
「一度、何年か前に。中には書類がぎっしりと。」
「中に猫がいる、とか?」
「いえ、滅相もない!」
「しかし、ごらんなさい。」と、ホームズは金庫の上から牛乳の入った小皿を下ろしてみせた。
「でも、うちに猫はおりません。豹とヒヒはおりますけれど……」
「ええ、存じております。まあ、豹は大きな猫とも言えましょうが、まさかこんな小皿で満足するはずもない。
考えることが一つ増えました。」
それからホームズは木の椅子の前にしゃがんで、背の部分を念入りに調べた。
「感謝します。はっきりしてきました。」と、ホームズは立ち上がり、拡大鏡を懐にしまいながら、
「おや、これは面妖な。」
 ホームズの目をとらえたのは、寝台の角にかけてあった小さな犬鞭であった。
ただしその鞭の先は、丸く輪にして結んであった。
「これをどう思うね、ワトソン?」
「ごく普通の鞭かね、なぜ輪になっているのだろう。」
「普通どころではない。まったく! 世も末だ。知恵のある人間が悪事のために頭を使うとは、末恐ろしい。
じゅうぶん見せていただきました、ストーナさん。よろしければ、芝地の方へ出ましょう。」
 我が友人は今までにないほどきつく顔をしかめ、眉根を寄せた。それはちょうど事件の現場を離れたときだった。
三人がうち連れだって芝地を何度も行ったり来たりしたが、ストーナ嬢も私も、ホームズの考えの邪魔をせぬように、ひとしきり終わるまで待った。
「お話があります、ストーナさん。」ホームズが言う。「どうあろうと、僕の言うとおりにすることです。」
「きっとそういたします。」
「事態は切迫しております。
守っていただかなくては、命の保証はできません。」
「わたくしの身は、お委ねいたします。」
「まず第一に、僕ら二人は、あなたの部屋で夜を明かさねばなりません。」
 ストーナ嬢も私も、驚きの目でホームズを見つめた。
「これは絶対です。説明します。
あそこに見えるのは、村の宿屋ですね?」
「ええ、クラウンと申します。」
「結構。あそこからあなたのお部屋の窓が見えますね?」
「はっきりと。」
「父親が帰ってきたら、あなたは頭が痛いと言って、ご自分の部屋へ下がってください。
それから父親が夜、部屋に引き取る音が聞こえたら、あなたは窓の鎧戸を開き、掛け金を外して、そこからランプで僕らに合図してください。そうしておいて、あなたは静かに必要なものを手にして部屋をお出になり、元使っておられた部屋へ。
壁に穴が開いていますが、一晩なら何とか我慢していただけるかと。」
「え、ええ、大丈夫です。」
「あとは、僕らにお任せください。」
「その、どうなさるのですか?」
「僕らは、あなたの部屋で一夜を明かし、あなたがたを悩ました音の正体を突き止めます。」
「では、ホームズさん、すでに見当が付いていらっしゃるのですね。」ストーナ嬢は、ホームズの服の袖に手をかける。
「おそらくは。」
「でしたらお願いです。姉の死因は何でございましょう?」
「申し上げるより、確固とした証拠をつかむのが先です。」
「せめてわたくしの考えが合っているのかどうかを。姉は恐怖のあまり亡くなったのですか?」
「いや、違うでしょう。
より判然とした原因があるかと。
それではストーナさん、お暇いたします。ロイロット博士が帰ってきて、僕らがここにいると知れては台無しです。
失礼します、気を強くお持ちに。言葉通りにしていただければ、迫りくる危険はすぐに取り除かれ、安心できるようになりますので。」
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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