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The Adventures of Sherlock Holmes シャーロック・ホームズの冒険

The Adventure Of The Speckled Band まだらのひも 9

Sir Arthur Conan Doyle アーサー・コナン・ドイル
AOZORA BUNKO 青空文庫
 シャーロック・ホームズと私は、宿屋クラウン・インで、居間つきの寝室を難なく手配できた。
我々は二階に陣取り、窓からはストーク・モランの領主館が、門から道、住居棟にいたるまで見通すことができた。
夕暮れ時、グリムズビ・ロイロット博士が馬車で帰宅するのが見えた。御者の少年の小ささに比べて、その巨体は覆うようである。
少年が重い鉄門を開けかねていると、博士の荒々しい怒鳴り声が聞こえ、怒って握り拳を振り回しているのも見えた。
馬車が走り帰って数分の後、居間の一つにランプが灯され、木立を縫ってぱっと黄色い光が漏れだした。
「いいかい、ワトソン。」と、ホームズが言う。我々は暮れゆくなか、椅子に腰掛けていた。「今晩、君を連れてゆくか実はためらっている。
危険が目に見えている。」
「私はお邪魔かね?」
「来てくれるとどんなに助かるか。」
「なら、行くで決まりだ。」
「実にありがたい。」
「危険と言うが、私はあの部屋で何か見逃したのだろうか?」
「いや。ただし僕は若干推理をした。
見たものは君と変わりないと思う。」
「私が妙だと思ったのは、引き綱くらいだ。正直、何のためにあんなことをしたのか、見当も付かん。」
「通風口も見たね?」
「ああ。部屋のあいだに小さな穴があるのは不自然だとも思えんが。
しかも小さくてネズミ一匹通れんよ。」
「ストーク・モランへ来る前から、通風口があるだろうと踏んでいた。」
「おいおいホームズ!」
「ああ、本気だ。思い出してみたまえ、お嬢さんの話では、姉がロイロット博士の煙草が匂うと。
とすれば当然、二つの部屋が通じているはず、とすぐ分かる。
かなり小さいものに違いない。さもなくば、検視官が調べたとき気づいていたはずだ。
よって『通風口』という答えが導かれる。」
「だが、あれが何の害になる?」
「少なくとも時期が奇妙に一致している。
通風口が作られ、引き綱がつるされ、寝台に寝ていた女性が亡くなる。
何かに気が付かないか?」
「どんなつながりがあるんだね。」
「あの寝台に妙なところはなかったか?」
「別に。」
「床に金具で固定してある。
そんな寝台どこにある?」
「どこにもない。」
「ご婦人は寝台を動かせなかった。
いつも同じ位置関係だったんだ、通風口と綱に対して――そう、ただの綱と呼ぼう。引いても鳴らないのだから。」
「ホームズ。」と私は声を張る。「君の言わんとすることがおぼろげに分かってきた。
我々は、その巧妙で恐るべき犯罪を瀬戸際で食い止めるというわけだな。」
「巧妙で恐ろしい……そうだね。
医師が悪事を行えば、一流の犯罪者になる。
パーマやプリチャドはその筆頭だ。
今回の相手はその上を行くが、ワトソン、しかし僕らはそのさらに上を行く。
ともかく、夜が終わるまで気は抜けない。せめてこの二、三時間は、静かにパイプでもくわえながら気分転換でもしよう。」
 九時頃、木立から漏れていた明かりが消えて、ストーク・モランの方向は闇に包まれた。
二時間が静かに過ぎ、そして時計が十一時を打つと同時に、ふと、正面右の方に、合図の明かりが灯された。
「合図か。」ホームズが立ち上がる。「真ん中の窓だ。」
 出かけにホームズは宿の主人と言葉を交わし、これから知人を訪問するが都合によっては向こうに泊まるかもしれない、と告げた。
しばらくすると暗い道に出て、冷たい風がさっと頬をなでる。前方の闇の中には、黄色い灯が木立を抜けて、我々を不気味な使命へと導く。
庭の塀が崩れていたので、難なく敷地の中へ入れた。
 
Copyright (C) Sir Arthur Conan Doyle, Yu Okubo
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